101. “一般読者”からの質問と回答V


6. アメリカでは体罰禁止は州によってどのように違うか

   州による合法、禁止、制限の一覧は杉田のページの第26編に載せてあります The National Center for the
   Study of Corporal Punishment and Alternativesを見てください。

   しかし、合法な州でも、The Dallas Morning News (6/18/2003)号によれば、連邦教育省の調査では、現在
   Texas州を含め23州では体罰は『合法』である。 もっとも地方教委で禁止している場合は違法である。また
   親の同意が必要なところは代替の懲戒を含めてそれによらなければならない。

   例えばTexas州でも、Dallas, Lewisville, Mosquite 教委では『合法』:であるが、Duncanville, Grand Praira教委では
   『親の同意が必要である』し、Richardson教委は『禁止である。
なお州教育局の調査によれば、Texas州で1999年
   に、約390万人の生徒のうちで、約74,000名
がパドルによる体罰を受けた。 男子83%   黒人生徒人口は14%で
   あるが、体罰を受けた生徒
では24% になる。また現在、Dallas教委は体罰禁止を考慮しているとのことである。


  【註】最近の体罰統計については、巻末に追記したので参照してください。

  また、連邦教育省のホームページに懲戒の一覧の中に体罰もふくまれている。そこには、
  その他コミュニティサービス、居残り、校内停学、オータナティブ・スクールへの送致、長期の停学、退学などが列記して
  ある。

  また杉田のページ第24編 体罰問題...その一も参照してください。 その一部を下記します。
   Mississippi州........ Mississippi Secretary of State, Mississippi Code, 37-11-57 ( 原文省略 )
   @ 体罰は秩序を維持するためや生徒を懲戒するために、合理的な方法で実施されること。
   A 州法や連邦の法に拠ること。  B 教員、補助教員、校長、副校長のいずれも行使できる。
   C 悪意、恣意、人権無視、安全無視でないこと。  D そのために生徒が悩んだとしても、教員等は免責で
     ある。

  ○ Pennsylvania州 ....... 体罰制限条項 22 Pa Code Section 12.5の一部( 原文省略 )
   @ 地方教委の政策やガイドラインに合致していること。  A 傷害を与えるものでないこと。  
   B すべての親に徹底されていること。  C 親が反対している場合は実施できない。( 別の懲戒 )

  また[理由のある力の行使]は体罰ではありません。 例え体罰禁止の州でもそれは合法で、その共通したタ
  イプ は次の例の通りです
 わが国でも参考にする必要がありましょう。 第25編を参照してください。
   Pennsylvania 州教委規則 12.5
   次の場合は、たとえ親やある教委が体罰に反対していても、力を行使することができる。
   @ 騒ぎを静める場合  A 武器ゃ危険な物を持っている場合 B 自己防衛の場合 C 他人や器物を護る場合

  2 Virginia 州は体罰禁止であるが、[力の行使]については同様である。更に、その際、少しの肉体的痛みや怪
   我についても問題視していないのが特徴的である。 その関係部分の原文を載せておこう。Code 22.1 - 279.1

   ○ Idaho, Independent School District of Boise City 3270
    [理由のある力の行使]については次の点を考慮すること。
    @ 適度なものであること。 A 長く続く傷害を与えないこと。 B 生徒の態度や過去の行為が考慮されること。
    C その罰の性質と強さ   D そんなに厳しくなくとも効果のある方法て゛あること。  E 他人の安全・安定

  体罰を親が同意しない場合は、[ それに代わるべき懲戒を行え] と規定している例
   Ohio州 Ohio Revised Code, Title 33 Education Section 3319.41 
   Texas州 Garland Independent School District
  【註】 このように体罰にかわるべき懲戒に服すべきと規定しています。

参考事項  全米PTAの方針
  親に告げられること、理由、校長などによって行使する、体罰以前に他の懲戒の方法がとられていること、記録を
  残すことなどの条件を示して消極的ではありますが容認しています。

7. アメリカでは体罰についての具体的な事例はどうか

  今でもアメリカでは、次のいわゆるイングハム判決が唯一の連邦最高裁判決です26-1 体罰判例-アメリ
 カ連邦最高裁『イングラハム』判決
イングラハム 対 ライト事件: Ingraham v. Wright
1977. 4. 19 判決 とし
 て載せてあります。 Supreme Court of the United States, 430. U.S. 651
パドルを用いた体罰を合憲とされた例です。

  すなわち、フロリダの中学生に対する体罰について合憲とされたものであるが、しかしこれを単純に『体罰の容
  認』ととってはならず、あくまでも教員による体罰は合衆国憲法修正第8条に定められている『残酷で異常な懲
  罰』には当たらないとし、また修正第14条に規定する『厳格な適法手続き』を経て行使するほどのことではない、
  とされた。   従って、州法や教委規則などで体罰禁止とされているところでは、勿論、体罰は違法であるし、
  また禁止ではない場合でも、いろいろな条件が付けられている時は、それに拠らなければならない。 また逆
  に体罰禁止の代替措置として停学などの処分が定めれている場合は、それを確実に実施しなければならない。


   ところでこの判決は、5 : 4 の多数判決であったが、これを『体罰賛成 5』、『体罰反対 4』と
   誤解しているむきがあるがそうではない。州法や規則などで禁止していない場合、しかも一
   定の条件を守って行使される体罰について、これを違法としない点では少数説といえども同じ
   なのである。  ただ少数説は体罰によっては残酷で異常なものもありうるとし、従って厳格な
   適法手続きまでは必要ないが、何らかの体罰行使に至るまでの手続きは必要である、としてい
   るのである。  一方、多数説も前述のように体罰に条件をつけ、それが遵守されることを想定
   しての意見であり、しかも残酷で異常な体罰については、他の救済措置がとられるので憲法問
   題としては、修正8条も14条も必要ではないとしているのである。 従って両者の間にそれほど
   大きな違いはない。 やや専門的になるが前述したように、わが国の著名な教育研究者のな
   かにも、この点を見落としている人がいるように思われるので付記することにします。

最近の体罰判例   
  1998年 3月 4日、Maryland州控訴審判決。特殊教育を受けていた9才の生徒がパンツの中に小便をもらしたのに
  腹を立てて定規で叩いて腕と足に痣ができる傷を負わせた事件である。 [5年の執行猶予と21才以下の子に対し
  ていかなる活動もできない]旨の判決。但し
教委は体罰禁止を徹底していたので責任はない。

  また杉田荘治著『アメリカの体罰判例30選』学苑社 昭和59年に載っています。少し以前のものて゛すが参
  考にしてください。今も大きくは違っていなのではないかと思いますが、しかし第124編で「ダラス教委は今、
  体罰禁止を考慮している」でありますように、その方向に進むもの
と思われます。その理由は人権尊重の高
  まりとともに人種差別、性差別などとからんで
らぬほうが賢明であるとする考えも働いているように思う。

 前記『30選』の数例
  ○ みだらなノートを廻していた生徒に対するしつけ指導としての体罰と、その程度とを勘案して違法性なしと
    された例。 バーモント州 『ゴンヨウ』事件 1973,年連邦地裁判決

  ○ 製図用コンバスを用いた体罰を違法ではないとされた例。 ノースカロライナ州 『べーカー』事件 1977年 
    連邦地裁判決

  ○ 中学2年生がベルが鳴るのに友達の手袋を取り上げて遊んでいたために、体罰を受け、鼓膜障害を引き
    起こした体罰を違法とされた例。 アイオワ州最高裁 1961年判決 『ティンクハム』事件

  ○ 指導過程でガラス戸に手を突っ込み、切り傷を負わせた体罰を違法ではないとされた例オレゴン州控訴裁 
    1973年判決 『スイムす』事件

  ○ 教師に毒つき反抗した生徒に対する体罰を正当とされた例。 1975年 『ロイ』事件 ルイジアナ州控訴 
    1975年判決

  ○ 繰り返し顔面殴打の女子教員の違法事件 ミゾリー州最高裁1976年判決 『マウント・ゥ゛ァーノン』事件
  ○ 籐の鞭を用い体罰を違法ではないとされた例 『ストリーター』事件 ミズリー州最高裁 1979年判決
  ○ 体罰と停学選択を学校の裁量として認められた例 『ドナルドサン』事件 イリノイ州功裁 1981年判決
  ○ 教員が「黒ん坊、唖し」などの蔑語を使った体罰を違法とされた例。 『マックイントット』事件 ミシガン州控訴裁 
    1981年判決


  その他、参考になる資料として次ぎがあります。 1992年出版ですが内容は充実しています
  すなわち、至文堂『現代のエスプリ 302号』 現代の教育に欠けるもの、1992年/9月号
   そのなかに杉田の論文も載せられています(144頁〜150頁)。 ・体罰法令と疑問点
   ・教育法学と体罰  ・教師の体罰の限界  ・親の懲戒権と教師の懲戒権(問答形式)など。

  またそれについて杉原 誠四郎氏が次ぎのようにコメントされています。 152頁 すなわち、
   杉田は子供に対する「体罰」は場合によってはやむをえないという立場をとる。   杉田が提起している教師の
    「体罰」のあり方は、まじめに考えてみなければならないものである。

    
杉田論文にも、そして寺崎論文にも紹介されているように、文部省では、「軽く叩く等の軽微な身体な身体に対する
    侵害を加えることも事実上の懲戒の一種として許されると解釈するのが相当であろう」と、実情にあった解釈をして
    いた。 しかるに、最近、身体に触れるだけで、法定禁止の「体罰」でというような、あえて言えば異常な風潮になった
    のである。

8. 体罰禁止について海外ではどうなっているか

  よくわかりません。 ただ数年前にカナダについて下記のようなことがありましたカナダでは体罰容認と思われる
  か゛、ある全国的な団体から国会に[ 体罰禁止]の法制定を求めて請願書が出されている。 そのなかに、現在の
  Criminal Code,
section 43 に[ 教職員、親、保護者は生徒、子どもを懲戒するために合理的な力を行使するこ
  とができる]と規定されています
。 さらに、それにはspanking, slapping.... などが含まれていますので。WHEREAS
  &quot ;reasonable" force has been interpreted by our courts to include spanking, slapping, strapping, kicking,
   hitting with belts, sticks and extension cords and causing bruises, welts and  abrasions.


  また、次ぎに少し旧いものですが一覧が載っていたと思います。沖原 豊『体罰(教師のためのベストライブラリー
  17)』第一法規
 これは前述した『現代のエスプリ 302 現代の教育に欠けるもの』至文堂 1999/9 にも載っ
  てい
ます。


追記 (2005年10月) 巻末に記載した『全米体罰禁止連合』のレポートによれば、世界各国の体罰
              禁止の状況は下記のとおりである。

Year(禁止された年)

Country (国)

1783 Poland
1820 Netherlands
1845 Luxembourg
1860 Italy
1867 Belgium
1870 Austria
1881 France
1890 Finland
1900 Japan
1917 Russia
1923 Turkey
1936 Norway
1949 China
1950 Portugal
1958 Sweden
1967 Denmark
1967 Cyprus
1970 Germany
1970 Switzerland
1982 Ireland
1983 Greece
1986 United Kingdom***
1990 New Zealand
1990 Namibia
1996 South Africa
1998 England*
1998 American Samoa
1999 Zimbabwe
2000 Zambia
2000 Thailand
2000 Trinidad and Tobago
2001 Kenya
2002 Fiji

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付記 最近、テレビ討論会で「体罰」をテーマ-にして論ぜられているが、そのいずれも基礎的資料が
    
余り十分でないように思われる。 上記の『現代のエスプリ』またできれば杉田の論文も利用
    されることを期待したい。

     なお、NHKは2000年, 1月 8日と9日、衛星放送BS-1で、『地球法廷 ・ 教育を問ういという番組
    を放送された。 第一日目『自由か規制か』では、杉田の意見も取り上げ約3分間、放映された。
    感謝している。 その内容は主として [理由のある力の行使]は体罰ではないと校内謹慎[校内
停学]であった。

9. ヨーロッパでは公立学校は基本的に学校ごとの採用か。 そうすると公務員ではないか。

  そんなことはありません。 できるだけ校長の人事権や学校財政の裁量を尊重しようということで、最終的な採
  用などの人事権は地方教委にあります。 従って事実上、学校で採用のような形であっても公務員です。
将来、
  その教員の住居のやむをえない事情や校長が変って、良い先生だが新しい校長との折り合いが悪くなった、などの
  場合は異動可能の利点がありましょう。
 もっとも中には,全く学校独自の職員の採用もありましょうが、それは質問の
  趣旨でないように思います。 私も県教委で人事担当をやりましたが、以上のことは、どの国でも同じだと思います。

  なお参考までに杉田のページ29 イギリスの教員の勤務評定のなかの一文を下記します。
    
  最近とくに、学校に多くの予算を配分し、執行させ、教員の採用も学校独自で、また学校理事会の活用などの
  関係で、わが国の教育委員会と比べて、その権限が小さくなってきている
なおこの件とは全く違いますが、イギリ
  スの勤務評定については次ぎのようです。29. イギリスの教員勤務評定
 すなわち、アメリカでは評定員 ( evaluators )が、
  直接、教員を評定するが、イギリスでは、そのような評定員はおらず、学校調査官 ( Inspectors ) が授業観察などは
  行うが、しかし彼等は直接、教
員を評定するのではなく、その学校の教育の在り方や質を調査・評価することが任務で
  あって、その一環として授業観察も含めるのである。主題の教員の勤務評定は、前述のように校長によってのみ行われる。
  しかし、それは外部のトレーニングを受けた評価者によって認定される必要がある。

  ● 校長が、それを評定し、外部の評価者 ( Assessors ) によって証明されなければなりません。
   ・ 正式採用教員は、校長によって評定されます。 ・ 校長によってのみです。 しかし、それは外部の有資格の評
    価者 ( Assessors ) によって認定される必要があります。それらは、他の校長、教育コンサルタント、地方教委
    のアドバイザーなどで、すべて、教育雇用局のトレーニングを受けていなければなりません。

コメント
   ご覧のとおり“一般読者”からの主として教員のあり方についての質問に答えるため、出来る
   だけ客観的な資料を中心にしてまとめてきたが、その分野では多少とも役立つだろうと考え
   ている。
   国家、社会が健全であるとはその中間層が健全であることであり、それには特に公立学校教
   育が健全に機能していることが肝要である。幸いなことに、わが国の公立学校教員の資質は
   高く、その多くは誠実で意欲にも富んでいる。 ところが最近、「教師が....」、「教師が..」と特に
   大都会の一部“悪い”教員、無能な教員を誇張して報道し、問題を抉ることによって問題の核
   心に迫まろうとする狙いではあろうが、結局、教育そのものを揶揄し嘲笑して、教育の向上に
   役立つどころか却って善良な教員の自信を失わせ、教育そのものを阻害している放送番組も
   あり残念である。 今少し、教育の現状を世界的に、客観的に比較分析して、そのなかから役
   立つものを取り上げて、具体的に施策するように、またさせるように力を合わせることを忘れて
   はならない。

 2003. 9. 23記           無断転載禁止


追記(2005年10月)     アメリカの体罰関係統計

   『全米体罰禁止連合』: the National Coalition to Abolish Corporal Punishment in Schools
   の統計は連邦教育省が出処であるので信頼できる統計とみなしてよい。 その2003年2月発表
   によれば次ぎのとおりである。 もっともその調査は1999-2000年度分である。

  1. 次ぎ27州が体罰禁止である。
     Alaska  California  Connecticut  Hawai  Illinois  Iowa  Maine  Maryland
      Massachusetts  Michigan  Minnesota  Montana  Nebraska  Nevada  New Hampshire
      New Jersey  New York  Dakota  Oregon  Rode Island  South Dakota  Utah  Vermont
      Virginia  Washington  West Virginia  Wisconsin


  2. 次ぎの23州では容認である。 もっとも本文で述べたように地方教委によって禁止され
    ているところは禁止である。 また一定の条件が定められているので、それに拠らなけ
    ればならない。 連邦へ報告されている体罰を受けた生徒数、その%なども下記しよう。
     ご覧のとおり、全米で342,038名、 その全生徒に対する割合は0.7%である
      体罰ワースト10       小学校・中等学校分(1999-2000)
        州       体罰を受けた生徒数   その全生徒に対する% 
 Mississippi   48,627    9.8
 Arkansas   40,437    9.1
 Alabama   39,197    5.4
 Tennessee   38,373    4.2
 Oklahama   17,764    2.9
 Louisiana   18,672    2.6
 Texas   73,994    1.9
 Georgia   25,189    1.8
 Missouri    9,223    1.0
 New Mexico    2,205    0.7
 その他の州  
 Arizona,
 Colorado
 Delaware, Florida
 Idaho, Indiana,
 Kansas,
 Kentucky,
 North Carolina,
 Ohio,
 Pennsylvania,
 South Carolina,
 Wyoming

  全米合計
 生徒数 342,038
 その全生徒に対
 する%   0.7%