135. アメリカの学校教育改革の事例ー日米の比較に
    おいて その2
 


杉田 荘治


はじめに
   アメリカでは新教育改革について先に教職員の待遇改善、学校管理職の権限強化、学力統一テストの結果責任
   など
を中心にして述べたが、今回は、教員組合の影響力、地方教委の権威の低下などを中心にして見てみよう。 
   そのかなりの部分は諸編で記述したものであるが、ここでまとめておこう。

T 教員組合の影響力
   最近、アメリカのデンバー市教員組合が市教委と共同して、新しい給与体系を創った。4年間かけての試行チー
   ムの試行を経て合意したものであるが、今後そのための市民の増税
について賛成が得られれば実施さる。昇給
   分を従来のような年功序列的な方法によるのではなく、いわゆるメリット・ペイ方法を是認するもである。「教員が
   努力し成果をあげれば報いられることは良いことだ」と教員組合も考えている。
 近くこれについて別編で詳
   述する予定であるが当面、次ぎを参照してください。http://dps-dcta.dpsk12.org Sustaining The
   Partnership For Student Achievement
 また    http://www.denverteachercompensation.org 

  ○またイリノイ州の例についてもイリノイ州の2大教員組合であるIEAとIFTの委員長たちが、この木曜日に
   Blagojevich州知事と会って、知事の教育改革案についての説明を受け、それに対するアドバイスを行なった。
   その改革案は準独立しているイリノイ州教委の権限を大幅に削減して、新しく創る州知事が管理する州政府レ
   ベルの代理機関にその権限を委譲させようとするものである。
   教員免許の件について知事は、これを州教委の権限から取り上げて、新しく創る職業的教員標準委員会
   Professional Teacher Standard Boardに委譲しようとしているが、教員組合はこれを高く評価している。教
   員免許の見直しについて作業チームを創りますが それには、K-12(小・中・高校)コミュニティの代表者、教員組
   合からの委員、大学関係者、議会から、知事部局から、事業主からの委員で構成している。しかし教委のスタッ
   フは含まれていない。このように教員組合が「教育改革」の大義名分のもとに首長側に参画してくると益々、
   教委の権限は失われていこう。 なお、これについては下記を参照してください。

   http://www.aba.ne.jp/~sugita/122j.htm 122. 話題: 教員組合が州知事の教育改革と組んで益々、
  教委側の無力感が拡まっている

 ○ New York市教員組合の無能力教員の解雇手続きについての協力ぶりも次ぎで見られる。
     http://www.aba.ne.jp/~sugita/121j.htm 121. 話題: アメリカで教員組合が「無能力教員の解雇
  手続き」を早めるように市教委に求めている
。その理由は短縮した手続きによって生ずる費
   用を他に活用できること、また解雇される教員にとっても結果的にはよいこと、また『同僚手
   助け計画』に参加することによって、公平、客観的に評価することが出来る自信からもきて
   いよう。

U 地方教委の権威の低下

  ○ 地方教委が州の管理下におかれるカリフォリニアの例
   Vallejo市教委が財政難に陥ったために、州政府から緊急援助を受けるとともに州の直接管理に移されること
   になった。昨年、Oakland市教委に1億ドルの緊急援助が行なわれてから、今回のケースは前述したように
   7番目のものとなる。 今後、州議会がそれを承認してから行政官が任命され、この教委の権限はアドバイス
   程度のものに限定される。その他下記を参照されるとよい。
    http://www.aba.ne.jp/~sugita/132j.htm 132. カリフォルニア州のある地方教委が州の直接管理に移される

 ○ カンザス州の例 
   カンザス州教委は公選制であるが、これを知事の任命に切り替えようとする動きが強まっている。 これも首
   長の教育への介入の流れの一つの例といえよう。上院と下院でそれぞれ3分の2以上の賛成があり、その後、
   住民投票での過半数の賛成が必要であるが、それは11月に行なわれるかもしれない。その他、次ぎを見て
   ください。
   http://www.aba.ne.jp/~sugita/123j.htm 123. アメリカ・カンザス州で公選制の教委を廃して知事の任命に
  切り替えようとしている。

   http://skyways.lib.ks.us/KSL/ref/constitution/art6.html カンサス州憲法 教育を挙げておこう。

○ Virginia州の例
   州教委が裁判所に対して成績不振の地方教委を訴えることができるように州議会が新たに法を制定するよう
   に求めている。すなわち、Virginia州教委は昨日、満場一致で「慢性的に州や連邦の学力標準テストで不振が続
   く地方教委について」裁判所に提訴する権限を与えられるように、新たに立法するよう求めた。
   Virginia州では成績不振の地方教委でも、州教委が直接管理することは出来ないことになっているので今回、
   新たに介入を正当化する立法を求める動きになったのである。 これについては下記を参照してください。

   http://www.aba.ne.jp/~sugita/120j.htm 120. 話題: 州教委が成績不振の地方教委を訴える

V 州学力標準テストの強化 − 連邦の権限強化

   しかしNebraska州が、これに抵抗し連邦の承認をとりつけた。 アメリカでは新教育改革法によって、すべて
   の州がリーディングと数学について州の学力標準テストを実施し地方教委や学校ごとの成績を比較することになってい
   るが、ネブラスカ州だけは、これに従わず独自に各地方教委ごとの評定方式に拠ることとしている。School-based,
   Teacher-led, Assessment Reporting System:STARSといえよう。 ○ “一発勝負的テスト”に依存するような評定
   方式ではない。 517地方教委が独自に評定方式を作る。 ○ 教員による平素の観察と評価、地区ごとのテスト結果、
   州の書き取りテストの結果、全米的に行なわれているテストの結果などを総合して評定するのであるが下記を見てください。

   http://www.aba.ne.jp/~sugita/133j.htm 133. アメリカではネブラスカ州だけが州の学力標準テストを実施しない

W その他
   ○ ワシントン州が41番目の州   これも学校教育改革の堅実な事例として注目したいが詳細は下記を見てください。 
   全米で2996校
  http://www.aba.ne.jp/~sugita/130j.htm 

                    わが国の教育についての検討事項

   このことについて最近、教育改革を推進されているある市長さんから同市の『21世紀の教育について』
   の著書を送っていただいた。 下記はそれに対してに送った所感であるが、標題の事項についてはそ
   れを参考にしてください。
                          記
   1. 客観的な学力標準テストはどうなっていますか。
    小人数授業・学級、副読本づくり、「チームティーテング」など先導的ですが、果たしてその結果、どの程度、
    学力が向上したのか検証するのは何に拠るのか、です。わが国ではアメリカなどとは異なり、定期的にす
    べての生徒が受けなければならない国、県などの学力標準テストがなく、学習塾や高校入試の合格状況な
    どに事実上、依存していますが、それでは不充分でしょう。 そんな客観性のあるテストはありえないといっ
    ている限り、自己満足的な教育改革との批判はついてまわりましょう。

   2, 学校や教員の自由、裁量の余地をあたえる、しかしその「結果責任」を問う
    これは前述1とも関係することですが、頑張って成果を挙げた学校や教員に対する顕彰や優遇、かたや成
    績不振のそれらに対する措置ですが具体的な施策が、はっきりしません。 わが国の国民感情からして、こ
    れは実に難しい問題ですが、教育改革という以上は避けてとおることは出来ないと考えています。

   3. 教員研修について
    副読本づくりなどを通して、教員研修のことはわかりますが、広く個々の教員が自己の長所を伸ばし、短所
    を補うような自己研修についての具体策が今ひとつ、はっきりしません。 銭と時間を与え、計画させ結果責
    任を果たさせるような具体策です。これも時には組合に利用され、またサボりに使われるような危険がついて
    まわりますが、しかし教員個々がそのようなことを実施しなければ、いつも官製の研修会に終始しましょう。

   4. 学習塾との関係、また民間人経営の公立学校(公費を与える意味)の認可
    平均的な子には良い、しかしできる子は退屈して、学習塾に期待する、といった問題の対策も大変なこと
    でしょうが、その対策についても余りはっきりしません。いっそのこと、民間人経営のそれを認可し、公立学校
    の良さと競争させられてはいかがですか。それは公立学校教育の破壊であるというなら、自己満足的な教育
    改革との批判はついてまわりましょう。


   5. 必要な事務とエネルギーの善用について
    これまた難しい問題ですが、調査、統計、報告書づくり、研究会、副読本づくり、などはすべて必要ですが、
    それに振りまわされるという危険は一方でありましょう。 
農学栄えて農業滅ぶの教訓はどこ、誰にでも
    当てはまることですが、その点の具体的な配慮は
どうなっていますか。

   6. ゆとりと学力充実
    学校5日制と学力充実との関係はこれからも長く続く課題でしょう。 誰がどうやっても不可能のことのように
    思われます。 従って事実上、土曜日でも学校を開き5日制でない学校をどの程度、容認するかがポイントだ
    と考えます。 補習授業などの容認、課外活動、そのさいの手当てや勤務の弾力的な裁量などですが、これ
    についても今ひとつはっきりしません。

   7 国際人としての教育
    虫の良過ぎる願いですが、たとえ日本的英語でも英語を使って外国人と渡り合える日本人を育ててください。
    平均的な人を育てることが勿論、最も大切なことですが、貴市の
教育から、そのような人が出てきそうな予感
    がする、といった教育改革も望みます。

 2004. 6. 1記             無断転載禁止