89. アメリカの教員給料(AFT発表)


杉田 荘治

はじめに
   アメリカの教員給料については先にNEA(全米教育協会)報告やNCES(連邦教育省統計局)分とし
   ては『教育関係統計W』として述べたが、最近(2003. 7月)、AFT(アメリカ教員連盟)発表としての
   レポートがあったので、その概要を述べることにする。【資料】Globe Correspondent (7/13/2003)

T 概要
   教員の初任給は少し上がって、全米的には教員不足の事態は少し改善されたが、しかし経験を
   積んだ教員の給料には、そのような上昇は見られない。 すなわち、
  1. 2001- 02学年度、教員の平均給料は2.7% 上がってその年額は44,367ドルである。
    初任給は平均で3.2%上がって、30,719ドルである。
    このような上昇は労働市場が緩んだためで、そのため教職に多くの人たちを引きつけることになっ
    たのであるが、しかしベテラン教員に対する適当な給料が保証されていないので、彼らにとっては
    よくなっているとはいえない。 「教員の不足を解消するには役立っているが、優れた経験を積んだ
    教員を確保し続けるかどうかが問題である」とAFTのスポークスウーマンが語っている。

    すなわち何かと面倒なビジネスの世界やコンピュータの世界から教職に就こうとする人がいること
    は確かであるが、しかし彼らが、どれくらい教職に留まるかは不明である。腰掛け的な仕事になる
    のか、それとも真剣に打ちこむ仕事になるのかが問われるのであるが、それらの人に報いるような
    教員の給料にはなっていない。

  2 日本やシンガポールでは、教員の給料は会計士や数学者と同じような給料である。 このよう
    に教職は魅力あるものになっているが、「アメリカでも25%アップすれば、シンガポールとほぼ同額にな
    る」とLesley教育大學のCronin部長はいっている。アメリカでも多くの人は3年か4年ぐらいは喜んで
    教職に就くであろうが、彼らはその後、家を買い、結婚し、子を養わなければならなくなるが、その計
    画に給料が適応していかない実状がある。特に数学、理科、スペイン語の教員についてそれがいえる。
    もっとも多くの学校は英語、数学、理科、社会などの基礎教科に力を注ぎはじめたので体育の教員が
    過剰になってきている。


   【参考】このように、わが国の給料を高く評価していることに注目したい。このことは杉田が先に論じた
    H教育(大学院)大學での講義要旨と似ているが、その関係部分を再掲しておこう。
     わが国では県立学校はいうまでもなく、公立小学校・中学校の教員も『県費負担教職員』とい
      われることからもわかるように、その給料はすへて県費(都道府県・指定都市)である、人事も
      広域に亘って行なわれる。従って、いかに財政的に貧しい地方や地教委といえども教員給料
      について心配する必要はないし、優れた教員を確保することができる(市町村立学校職員給
      与負担法)。さらに、その県費の半分は国庫から支出される(義務教育費国庫負担法)。従っ
      て財政的な厳しい県といえども余り教員給料について心配する必要はなく、全国的にみても
      良い教員を確保し高い教
育水準を維持することができるという利点がある。アメリカでも例え
      ば、最低給料表、教職経験・年齢などを加味した標準給料、初任給に民間の加算例などを制
      定し、これを強行法規的なものとして、その額に達しない額の全額または2分の一などを連邦
      または州が補助する。教職員としての誇り、生活の安定感、人材確保、地位向上は自ずから
      期せられよう


    もっとも、わが国でも最近、前述のような教員給料についての優遇策が予算の配分上で問題になって
    いる。すなわち、この制度にぬるま湯的に安住し、教育における自由な競争を減殺させている面も
    否定できないであろう。教員給料についての彼我の差を認識し、より自覚してわが国の利点を活かさ
    れることが望まれる


U 給料の額
  1 California州が全米で最も高く、その平均は年、54,348ドルである。 Conneticut州は第3位で52,376ドル、
    Rhode Islandは第4位で51,619ドルである。しかもRhode Island のある地区では、全米的認証を得た教
    員7,000名に一人当たり7,000ドルのボーナスを支給している。

  2 Main州は今まで伝統的にその周辺地域での“道を開く”役割を果たしてきたが、最近の厳しい経済事情
    のために全米で30位から38位に落ち、その平均給料も37,300ドルである。しかも初任給は他のどの州
    よりも低く、僅かにその下にはSouth Dakota, North Dakota, Montanaがあるだけである。また地理的に
    孤立した地域では更に低い給料で慢性的な教員不足が続いている。

V 今後
    じわじわと予算のカットがなされるようになってきた。 例えばMassachusetts州では今まで中堅教員に
    魅力あるものであった20,000ドルのボーナスは、打ち切られることになろう。マスター教員の分について
    も同様。 また前述のRhode Islandの給料の増額についての交渉も凍結されたままになっている。
 
補足
     前述の内容はAFTの2002 Survey & Analysis of Teacher Salary Trends [pdf version]に詳細に公開さ
    れているので参照されるとよい。その中には、Michigan州が第2位で52,36ドル、New York州は51,020ドル、
    また最下位のSouth Dakota州は31,383ドルなどすべての州の額が示されているし、棒グラフも載っている。
    また他の職業との比較や昨年度分などもある。 少し旧いものであるが(1994年度)、国際比較もされてい
    る。そのなかには、わが国のことにも少し触れられているが、教職調整額(allowance)やボーナス、4.5月
    分のことも書かれていることにも注目したい。

おわりに
     はじめに述べたようにNEA報告やNCES統計Wと併せて、比較しながらこの資料を見られるとアメリカ
    の教員給料について、ほぼその全容を理解することができよう。また、わが国の教員給料については英
    文ではあるが、71. Average Salaries of Public School Teachers in Japanを参照してアメリカと比較し
    てください。

 2003年7月16日記               無断転載禁止